近未来に向けて、IoT(Internet of Things)技術により生み出された膨大なデータが知的な情報処理を可能にする「人工知能革命」が爆発的な進展を始めています。一方、ハードウェア技術の世界では、50年以上続いてきた「ムーアの法則(≒集積回路の性能は1.5年で2倍向上する)」の終わりが近づき、これに代わって性能向上をリードする新しいハードウェア技術が求められています。我々の研究室は、これら二つのトレンドが同時進行するここ数十年間を情報処理システム革新の好機と捉え、ソフトウェア技術とハードウェア技術の本来の長所を活かした上で、従来の枠組みに捕らわれない革新的情報処理ハードウェアの構築を目指す研究を進めています。
従来の情報処理システムは、フォンノイマンアーキテクチャと呼ばれる、情報を記憶する「メモリ」と処理する「演算器」の間で順次命令/データをやり取りすることを想定した「逐次ネイティブ」な方式で発展してきました。我々は、メモリと演算器を一体化し、かつそれらの接続を自由に変えられる柔らかいハードウェアを用いた「並列ネイティブ」な情報処理アーキテクチャの確立を目指して研究を進めています。これまで、FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いてデータマイニングや検索処理を高速化する技術や、頻繁に実行されるソフトウェアをその都度ハードウェア化して加速するプロセッサアーキテクチャ技術など、情報処理応用と集積回路を結ぶ研究成果を上げてきました。
ソフトウェアによる人工知能処理は、こと電力効率の面では、未だ人間に遠く及ばないレベルのものでしかありません。私たちは、その理由が、従来のフォンノイマン型情報処理方式が人工知能の処理内容にそぐわないためだと考えています。ちょうど鳥を学んで飛行機が発明されたように、脳の仕組みに学びながら人工知能を加速するハードウェアアーキテクチャの研究を進めています。世界中で激しい競争が繰り広げられている研究分野ではありますが、従来から研究を進めてきた柔らかいハードウェア技術に加えて、大規模メモリと瞬時に大量のデータをやり取りできる三次元集積回路技術を差別化のカギとして、我々の独自の解を作り出し、社会に貢献することを狙っています。