みなさんは携帯電話で長話をしていませんか?また、ノートPCと無線LANでネットサーフィンを楽しんでいる人も多いでしょう。このように、いつでもどこでも使える無線通信技術は私たちの生活になくてはならないものになっています。
では、このような無線通信は簡単に実現できたのでしょうか?
私たちの身の回りにはビル・電柱・看板などの建造物や室内の内壁・机など、多くの反射・散乱物体が存在しています。このため無線LANなどの比較的近距離の通信の場合でも電波の強度は周波数や時間により激しく変動しているのです。
複雑な電波環境の中でも高速で安定した通信を行うためには、環境に適応した送受信方式を実現しなくてはなりません。これには各送信アンテナへの入力信号、各受信アンテナからの出力信号を適応的に制御する信号処理技術が必要となります。
この時空間領域信号処理技術の研究開発は主にコンピュータ上のシミュレーションで行います。しかし、100%の動作保障を得るために実際に電波を飛ばしてテストすることも重要です。ただし、実際の通信環境では非常に複雑ですので、不具合を見つけるのは困難です。そのため、まずクリーンな環境でテストを行います。では、その環境を実現する電波暗室へご案内しましょう。
電波暗室は部屋自体が金属で覆われており外部からの電波の侵入を防ぐことができます。また、電波暗室内部の壁面は四角錐状の電波吸収体でくまなく覆われています。このため電波暗室内に置かれた送信アンテナからの信号は壁面に到達するとほとんど吸収され反射や錯乱が生じません。
電波暗室では送信アンテナから受信アンテナまで直接到達する信号のみを観測できます。このような環境は信号強度が時間・周波数によらず一定で、送受信機の基礎的なテストに最適です。北海道大学以外で大きな電波暗室を持つ大学はほとんどありません。私たちはこの電波暗室を利用して,新しい無線通信技術の研究開発に取り組んでいます。